· 

小説に出て来る固有名詞について

 

小説には固有名詞が書かれていることが多い。

人の名前や、町の名前、ビルや川や山など、さまざまな固有名詞がある。

 

もちろん、「Kさん」とか、「T市」とか、アルファベットで表記する作家もいる。

 

 

どちらがいいのか、悩むところだ。

 

 

スポンサード リンク

■固有名詞には必ずイメージがついている。

 

1つ、心していなければいけないことは、

「固有名詞にはすでに、イメージがついている」ということだ。

 

人物の名前の場合、名字とファーストネームとでは意味が違ってくる。

 

私の名前は「文秋」だ。

文化の日に生まれたから文とつけられた。

しかも、11月3日の文化の日は、秋刀魚のおいしい季節で「秋」だった。

 

だから「文秋」となった。

 

このように、どんな名前にも、意味がある。

 

親が適当に「太郎」と名付けたとしても、

そこには、適当な親に育てられたのだという意味が付加している。

 

名字だってそうだ。

「高橋」は、日本全国どこにでもある普通の名字である。

作品の性質上、そういう名字のほうがいい場合がある。

 

たとえば、リアリティを重んじる純文学作家は、ごく普通の名前を好む。

 

「伊集院」とか、「武者小路」とか、珍しい名字にしてしまうと、

リアリティが損なわれると考えているのだろう。

 

日本には、もっと珍しい名字がいっぱいある。

 

「鬼瓦」とか、「砂糖」とか、「無敵」「素麵」「東京」というのもある。

 

「四月一日」と書いて「わたぬき」と読む名字もある。

「辺銀」と書いて「ぺんぎん」と読む可愛い名字もある。

 

「禿」とか、「便所」とか「馬鹿」とか、ちょっと可哀想な名字もある。

 

こう考えると、名字にも、さまざまなイメージが付きまとうことが理解できるだろう。

とくに、人物の名前は、小説のなかで頻繁に出てくるので、

小説じたいのイメージを決定づけることにもなる。

 

ライトノベルや、ユーモア小説ならば、あえて、おもしろい名前を使うといいだろう。

 

 

インターネットで検索すれば、珍しい名字の一覧表が出てくるので参考にするといい。

 

 

■ファーストネームには時代性がでる。

名字に関しては、明治期に平民たちが一斉に名字をつけたわけだが、

それ以降、増えたり減ったりはするものの、まったく新しい名字が生まれることはない。

 

しかし、ファーストネームは違う。

いままで想像もしなかったような名前が誕生することがある。

 

ひと昔前、わが子に「悪魔」と名付けて話題になった親がいた。

市役所の人が、「いくらなんでも悪魔はないだろう」と考え直すように説得したという。

 

ファーストネームは、その時代の人気というものがある。

女の子に「愛」とか「愛子」とか、

とにかく愛という言葉を入れるのが流行ったことがある。

 

いまの天皇陛下が婚約されたとき「美智子」という名前が流行ったことがある。

甲子園で荒木大輔が活躍した年に「大輔」という名前の男の子がいっぱい誕生した。

 

当て字を名前につけるのが流行った時期もあった。

 

「泡姫」と書いてリトルマーメイドの「アリエル」と読ませるのだ。

これは、子どもが大変苦労しただろうなというのが容易に想像できる。

 

「希望」と書いて、ノアの箱舟の「ノア」と読ませるケースもあった。

 

英語読みを漢字で表記する名前も流行ったことがある。

 

「萌音」と書いて「モネ」と読ませるわけだ。

 

「花音」と書いて「カノン」とか、

「頼音」と書いて「ライオン」とか、

「心愛」と書いて「ココア」とか、

「男」と書いて「アダム」と読ませるのもある。

 

いわゆるキラキラネームというやつだ。

これは、いまだに、流行っていて、ブログのペンネームなどにもよく使われている。

 

 

小説を書く者は、このように名前には時代性があるということを知っておこう。

 

 

スポンサード リンク

■町の名前を書くときの注意点

 

町の名前にはすでにイメージが出来上がっている。

 

「新宿歌舞伎町」というと、あなたは、どんなイメージを持っているだろうか?

 

「風俗店やキャバクラ、ホストなどの店が多い、いかがわしい場所」

というイメージが一般的だろう。

 

実際、小説『新宿鮫』とか『不夜城』などは、

そのイメージのまま舞台設定されている。

 

つまり、多くの人がすでに持っているイメージをそのまま利用するわけだ。

 

逆のパターンもある。

 

「多くの読者は新宿はいかがわしい場所だと思っているかもしれませんが、

実際はかなりクリーンな場所なんですよ」

というスタンスで書くこともできる。

 

魔界都市として描いた小説もある。

 

いかがわしい場所として描いたほうがおもしろい世界が描けることはたしかだ。

だから、新宿は小説になりやすい。

 

漫画の世界でも、すでに、読者が持っているイメージをうまく利用している。

『サザエさん』は世田谷の桜新町だし、

『クレヨンしんちゃん』は埼玉の春日部だ。

 

「たしかに、あのへんには、こんな人間味のある出来事が起こるかもしれないよな」

と思わせるわけだ。

 

いずれにしても、具体的な地名が出てくると、読者はイメージしやすい。

 

K市と言われても、なかなかイメージできないだろう。

K市とした場合でも、ちゃんと読者にイメージさせるような工夫が必要となる。

 

現実は違うかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

実際、新宿歌舞伎町で、ドラッグや売春がいまだに行われているかどうかはわからない。

しかし、多くの人は、そんな取引が行われているんだろうなと思っているわけで、

そのイメージを借用して舞台設定をしていけばいい。

 

初心者の小説家は、実際の街を表現して描こうとする。

新宿歌舞伎町をいくら歩いても犯罪に出会うことはない。

だから、表面だけを見て、その事実を書いてしまう。

 

これでは、おもしろい小説にならない。

小説とは事実をなどるのではない。

新たな事実を作り上げていくものだ。

 

つまり、嘘の世界だということを忘れてはいけない。

 

 

 

 

■店名にしても工夫が必要になる

小説にはしばしば飲食店が出てくる。

そのときの店名をどうするか?

 

ありきたりな店名にしたら、店主はそういうことを適当に考える人間だということになる。

店主の人間性が、そういうところに出てくる。

 

逆に、コッタ店名をつけてしまうと、店主の意気込みや決意のようなものを感じさせる。

そうなると、小説のなかの店主の性格を見て、

 

「そんな情熱を燃やして決意するような人じゃないんだけどなぁ」

と読者は感じてしまう。

 

そうなると、そこで物語は破綻する。

 

一番いいのは、実際にある店の名前を使うのがいい。

 

村上春樹さんは『ノルウェーの森』で、

主人公に新宿のジャズ喫茶「DUG」でコーヒーを飲ませている。

この店はいまでもちゃんと新宿の靖国通り沿いにある。

 

かといって、作者のよくいく店を安易に小説のなかに入れてはいけない。

 

主人公の性格や人間性を考えて、

 

「こいつだったら、こういう店に入るだろうな」

という店を選ばなければいけない。

 

 

 

 

スポンサード リンク

■まとめ

 

固有名詞に関して、いろいろと述べたが、

いずれにしても、固有名詞をいろいろと考えるのは楽しいことだ。

 

創作活動のなかでも、とびきり楽しい作業だといえる。

 

こんなことを言っている作家がいる。

 

「何より、一番楽しかったのは、名前を考え出す作業だった。

ときとしてボクはとんでもない名前、

もの凄くコミカルな名前、

駄洒落になっている名前、

卑猥な名前を、

使いたい衝動に駆られ、

それを抑制するのに苦労した。

 

でも、たいていは、

リアリズムの領域内の名前で満足していた」

 

この言葉は小説を書く者が心しなきゃいけないことだと思う。

 

 

 

 

 

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    しろちゃぷ (火曜日, 09 10月 2018 13:21)

    とても勉強になりました。固有名詞は本当に悩みます。読者が想像する範囲で上手に作れるといいのですが、くどくなってしまったり、気づかれなかったりすることがあったりして。(以前書いた小説の中で、久留仁 譲二という女難の相があるモテモテ中年男性の名前を使ったのですが、誰も気付いてくれませんでした(笑。)でも、きっと書いているうちにだんだんコツが掴めるんでしょうね。