近年様々なメディアで話題となっているeスポーツ。
日本で注目されるようになったのはつい最近のことだが、欧米では1990年代から高額賞金が設定された様々な大会が行われていた。
参加するプレイヤーの中にはアマチュアもいればスポンサーなどが付いたプロもいる世界。
そんな世界で日本初のプロゲーマーとなり、今もなお最前線で活躍してる人物がいる。
梅原大吾。「ウメハラ」というプレイヤーネームで20年近く格闘ゲームのトッププレイヤーとして活動し、海外では「The Beast(野獣)」というあだ名がつくほどの有名人だ。
なぜそんな長い期間プロとして活動をすることができるのか。
20年経った今もなお現役で活躍している彼が大事にしていることを彼の著書『一日ひとつだけ強くなる』から紹介していきたい。
・梅原大吾とはどういった人物なのか
本の解説に移る前にまず梅原大吾という人物について紹介していきたい。
ウメハラは10歳のころに格闘ゲームをプレイし始め、若干14歳の時に当時の人気格闘ゲームで全国レベルの強さとなり、17歳の時に世界大会で優勝という華々しい活躍を見せた。
その後一度ゲームから離れ引退説もささやかれていたが2009年の大会優勝をきっかけに復帰。翌年にはアメリカの企業とスポンサー契約を結び日本人初のプロゲーマーとなった。
オーソドックスなキャラクターを好んでいながらも、本人の優れた先読みそして型を作らない戦い方は数々の名勝負を生み、国内外問わず多くのファンがいる。
その活躍はギネスにも認定されており、2010年には「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」に認定されている。
2017年現在4つの企業とスポンサー契約を結んでいるのだが、これだけのスポンサーがついているのはウメハラただ一人だけだ。
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・第一線で活躍し続けるために必要なものとは
著書『一日ひとつだけ強くなる』ではウメハラがプロとして勝ち続けるために大切にしている64のポイントを紹介している。
全てを紹介するというのはこの場では不可能なのでそこは書籍を手に読んでほしいところではあるが、大きくまとめると3つにわけることができる。
1.勝つために必要な視点
2.勝負をする時に不要なもの
3.プロとはどういうものであるか
ではそれぞれの項目についてみてみよう。
・勝つために必要な視点とは
ビジネスにおいても、とある場面ではこうしたほうがいいというような模範解答のようなものがある。
もちろんコンピューターゲームにおいてもそのようなものはある。
その基本を押さえることが勝つためには不可欠だと言っても過言ではない。
では常に場面ごとでの模範解答を出していれば勝つことができるのだろうか?
それに対して彼の答えは「ノー」だ。
反発があるかもしれないがこの箇所を読んだ時に考えたことがある。
もしあなたがとある会社の営業マンだとしよう。
その会社の営業のやり方は売上第一主義。売り上げを達成するために赤字覚悟の金額でお客から案件を勝ち取る会社だ。
そんなやり方でいつも営業を行っていても、売り上げ目標は毎年達成をしている。
ではこの会社の景気は良いかと聞かれると微妙なところだろう。
売上高で見れば目標は達成したかもしれない。だが利益という意味で見ればどうだろうか。
仮にこの後にさらに大きな商談があったとしたらそこで他の会社と勝負するだけの余裕はあるだろうか。
もちろんあるはずがない。
競争相手が出てこないとわかればライバル会社にとってはとてもありがたい展開であることは確実だ。
重要なのは、利益がちゃんと出る金額でその商談を勝ち取ることだろう。
結果から見ればあなたの会社はライバル会社に負けたことになる。
ゲームの展開も同じである。
ウメハラは勝つために必要なのは「場面ごとの視点」ではなく「全体での視点」だと本の中で語っている。
場面での正解のみにこだわってしまうと、関係のない場面でミスを犯してしまった時に「ミスをしてはいけない」と委縮してしまい、返ってミスを誘発してしまう。
抑えるべきポイントをしっかりと抑えてさえいれば他でミスをしても構わない。そう考えることで余裕も生まれる、というのがウメハラの持論だ。
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・勝負をする時に不要なものとは
勝ち続けるために不要になるものとしてウメハラは「感情」「こだわり」そして「安心と不安」の3つを挙げている。
まず感情。
焦りや恐怖からミスを起こしてしまうという意味でいえば感情は不要であろう。
ではそれ以外の感情、例えば欲望や興奮、怒りといったものはどうなのだろうか。
「あいつに勝ちたい!」といったものや「ギャフンと言わせてやる!」といった感情は良い結果を生むのには必要なものと考える人もいるかもしれない。
しかしそれらの効果は一時的なものでしかなく、自らのスタイルが崩れてしまう要因にしかならないとウメハラは語る。
現に彼もアメリカでの大会の折、大会規定に則った判定なのに現地のゲームファンからブーイングを受けたという過去がある。
そのあと「アメリカまで来たのになんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ!」と怒りに任せたままトーナメントを勝ち上がったものの、決勝で怒りが冷めた結果、集中力も切れてしまい、準優勝という結果に終わってしまった。
ではどうするのがいいのか。そういった時は「自分でどうにもできないものを受け入れる」これが大事だとウメハラは語る。
もちろんすべてに従順しろという意味ではない。
いわば「運」の要素みたいなものに関してはありのままを受け入れるしかないという意味だと私は認識している。
例えば電車の人身事故。
駅員に怒鳴り散らしている人がいたりするが、はたしてそれが何の解決になるのだろうか。
そんな時間があるのであれば、現状から最良の選択肢を選び出すことのほうがよっぽど重要であろう。
そういう意味だと私は捉えている。
続いて「こだわり」。
人間誰しもこだわりの一つや二つはあることだろう。
だがそれも時と場合によっては勝ち続けることへの邪魔になるという。
特に「本気」で取り組んでいるときは要注意だ。
何事にも結果が出なくても継続しなければならない時期はあるかと思うが、それにも限度がある。
そうした時にいち早く「何かが違う」と気付けるか否かで次のステージに移行できるかどうかが変わってくる。
ではどうやってその軌道を修正していけばいいのか。
まずは人のアドバイスを信じてみるという事、特に大失敗をしてかつ中身が伴っている人物のアドバイスは大いに価値があるということだ。
そういったものから学ぶことは多々あるとウメハラは語る。
逆に聞く必要のないのは「自分がすごいと思われたり、気持ちよくなりたい」、「自分が言われて不安になっているから言う」といった相手が感情任せで口にしたようなアドバイスだ。こういったアドバイスにはロクなものがないので聞く時間こそ無駄だ。
最後に「安心と不安」。
この2つが同時に出てきていることに対して違和感を覚える人もいるかもしれないが、どちらも勝負をする際には余計なものだ。
手に入れた情報を分析するときに安心や不安があると余計なものが入り込んでしまうからだとウメハラは語る。
現実でもそうではないだろうか。
完璧に準備をしたから仕事がうまくいくわけでもない。過ぎた安心は逆に心の隙を作り、思わぬ痛手をうけることもある。
逆もまた然りだ。
大事なのは今ある情報を客観的に正しく分析する力。
それこそが勝つために必要なスキルなのだろう。
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・ウメハラの考える「プロ」とは
20年以上格闘ゲームの世界でトッププレイヤーとして活躍しているウメハラといえどゲームに飽きるという事はあると本の中で明かしている。
ではなぜ「プロ」として活動をし続けることができるのか。
その秘密こそ今回紹介している本のタイトルのとおり「一日ひとつだけ強くなる」ということに尽きるのだと思う。
そのために大事なことが一つある。
成長のハードルを下げることだ。
何も毎日大きく成長することはない。というかそんなことは不可能だろう。
だがたとえどんな小さなことでも自分が成長しているとわかればそれが自分の自信となり、同時にモチベーションとなる。
これを日々続けられる人間こそが「プロ」である、とウメハラは綴っている。
何かの目標に対して熱くなるだけではだめだ。
そういったやり方をしているとその目標を達成した瞬間にプツリと成長が止まってしまう。
大事なのはどんな小さなことでも成長をし続けることなのだ。
それはただストイックにやっていればいいというわけではない。
体が疲れている状態というのは頭の働きも落ちてパフォーマンスも悪くなる。いいアイディアも浮かばないし仕事も雑になる。
「疲れているときに頑張れる人間が偉い」という理論など愚の骨頂だ。
体調管理をしっかりとこなすこともプロの仕事の一つだ
事実、プロゲーマーの日課にはジムで体を動かしたりランニングを行うといった体力トレーニングもある。
健康を第一に日々行動し、仕事をした時には人を引き付けるパフォーマンスができる。
それこそがプロの真の姿なのだ。
まとめ
ウメハラの言葉を借りてプロとしてどうあるべきかを書いてきたが、彼が最も大事にしているものは「自分というものをしっかり持つ」というところに尽きるのではないかと私は思う。
この軸を持っていないといつも周りに流されてどっちつかずの状態になってしまい、自分というものがないまま社会に流されてしまうのではないかと私は考えた。
自分のスタイルを持ち、勝ちにこだわらず負ける時も必ず自分のスタイルで負けるのがベストだとウメハラは明かしている。
勝ちにこだわるとそれだけ粗が出やすくなり、戻すのに苦労することとなる。そして自分のスタイルを貫いて負けることでより明確に反省点が見えてくる。
今回書ききれていないが、この本には20年以上世界の第一線で戦い続けている一人の日本人が勝ち続けるために気を付けていることがまだまだたくさんある。
たかがゲームのプロと侮ってはいけない。
様々なことが目まぐるしく変わる今だからこそ彼の言葉が鋭いパンチのように突き刺さる言葉もあることだろう。
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