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小説『歯車くん』

『歯車くん』

 

てとせ

      

これは、小学校の教室にある壁かけ時計の中の物語。明日から夏休みだという朝の出来事。

ぼくは、3番の歯車。

「さあ、今日も1日がはじまる。1秒も狂うことなく、24時間、働き続けるぞ」

あれ?

おかしいぞ?

友だちの9番の歯車くんがどしどしとやってきた。

「おいやばいぜ、時計が止まってるぜ」

ぼくより体が10倍もおおきな9番くんが、怖い顔をして言った。

「え、ほんと?」

「なに寝ぼけたこと言ってるんだ。止まっちまったんだよ」

9番くんがぼくの頬をペチンと殴る。

それで、ハッと目が覚める。ぼくはことの重大さにやっと気づいた。

「どうするの? もうすぐ子どもたちが来ちゃうよ」

「1番早い子どもがやってくるまで、まだ1時間ある。それまでに修理するんだよ」

「え? 修理?」

「そうだよ。それがおめぇの役目だろうが、サッサと自分の仕事をやれってんだ」

「え? どうやって修理すればいいの?」

 

「まずは、時計の中を見てまわりな。おかしなところがないか、チェックするんだよ」

 

 

 

ぼくは急いで時計のなかを見てまわった。

どうしよう?

あと1時間しかない。修理できなかったら、どうなるの? 

もしかすると、ぼくらは用なしってことになって・・・。 

ああ、ヤダヤダ! 

ゴミとなって捨てられるのだけは嫌だ。

 

24時間休みなく働くのはツライよ。

泣きたいときもあったし、逃げ出したいときもあった。でも、歯をくいしばって働いてきたのは、すべて・・・。

捨てられないためじゃないか。

時計は止まってしまったら、何の役にも立たない、タダの文字盤の箱だ。役に立たない箱だ。

若くて生きの良い時計がやってきて、ぼくらの代わりに教室の壁にかけられるんだ。そして、ぼくらは捨てられる。

ああ、何としても、あと、1時間で原因をつきとめて時計をふたたび動かさなきゃ!

ぼくは、文字盤を見てまわった。たしかに止まってる。

いつもせわしなく動いている秒針くんが、うずうずしながら止まっていた。

「おい! どうしちまったんでい。おいら、つっつと、突っ走りてえんだよ。何で止まっちまうんでぃ?」

秒針くんは、早口で言う。

 

すでに10分が経過していた。あと50分だ。

 

時計が止まっても、ぼくらは、正確な時間がわかる。なにせ、24時間、365日、時を刻んできたんだから。

 

「秒針くん。時計が止まったのは何が原因か、わかる?」

「そんなこと、わかるわけねえじゃねえか! とっとと、直しやがれってんだ!」

文字盤からおいだされてしまった。

 

時間はない、次へ行こう。

 

 

 

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ぼくは、電池に変わったことがないか見に行った。

そこには電池じぃじとコードばぁばがいる。昔からお世話になっている二人だ。

なにか時計を直すいい案があるかもしれない。

 

「じぃじとばぁばいる?」

 

「わしらはいるよ、おいぼれだが、手は抜かないさ、ちゃんとこの電池とせつぞくのコードはしっかりしているんじゃよ。でももうおしまいか」

 

「じぃじ、ぼくはおしまいになんてなりたくない。修理にきたんだ! 時計が止まった原因わかる?」

 

「なにを言っておるんだ、わからないことがあるとでも? わしらはだてに生きておらん。前にもあったからのう。検討はつくが、、あ、忘れた」

 

「忘れた? じぃじ、もういつも大事なところ忘れる・・・ほら、お願い、思い出して。時間がないんだ。おねがい!」

「・・・そうだ、そうだ、すまんかった、3番くん、きみの仲間は全員いたのかね?」

「えっと、歯車は全員・・・あ、確認してない!」

ぼくとしたことが。いつも一緒で、どんな時も呼吸をあわせてきた仲間。

ぼくらのチームワークはだれにも負けない、歯車と歯車の間にはかけ声なんていらないんだ。でも、気付かなかったなんて・・・

落ち込んでいる暇はない。歯車を確認しに戻るころには20分が経過してた。

あと40分。

いそがないと! このままでは、間に合わない。

ぼくは1番から順番に数えた。

あれ?

あれあれ?

体が一番小さな12番ちゃんが見当たらない。

「あの子ならそうねぇ。20分くらい前かしら、すごい目つきでどこか行ったわよ。はぁ眠い。」

となりの11番のおねえさん歯車がウトウトしながらいった。

これは大変だ! 時計が止まったのは歯車がなくなったからだ、そういうことだったのか。

時計は、12番ちゃんが帰ってこないかぎり、もう動くことはない! ヤダ! そんなの!

そう気付くといてもたってもいられない。

 

よし、修理するには、この12番ちゃんをつれて戻すことだ!

 

でも、ここにいないとしたら、どこに?

 

時計の中は見て回ったぞ?

もしかして!

時計のある教室を見た。

あんなちいさな体、この広いところからどうやって見つけるんだ。

「迷っているひまはない!」

自分で言い聞かす。

 

修理しないと、捨てられちゃうんだ、それはヤダ。絶対にヤダ!

 

 

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ぼくは時計を飛び出して、教室中を探すことにした。うまく落ちたのは、黒板消しの上。黒板にはいない。机とイスを全部みてまわるのか? ひぇっと足がすくんだが、探すしかない。

12番ちゃん? どこー?」

教室を一生けん命に走って探す。

 

はぁはぁ。このイスにも、机にもいない。はぁ・・はぁ・・・。いない。足が重たくなってきた。

そうこうしている間に時計がとまってから30分が・・・いや35分と30秒経過していた。

どこなんだ?

 

教室を見渡したその時だった。窓ぎわにキラリと光るものを見つけた。なんだろう。近づいてみる。窓ぎわに確かに何か光っていたのだけど・・・

「もう、絶対に帰らないんだから。」

ん? 学校の子どもたちがきた? いやいや、まだ時間はあるはず。

「ぜっったいに帰らない!」

そう叫んだ声は、そう! あの12番ちゃんだ!

「おーい! おーーい! 12番ちゃんいるの?」

あわてて窓ぎわに一番近い机によじ登って声をかけた。ここなら12番ちゃんと話せるはず。

「ここにいるわ。え、なんで、こんなところに3番くんが? あたしはせっかくにげだしたのに見たくない顔!」

「はぁ? ちょっと、ちょっと! ぼくは君をさがしにきたんだ。時計に戻らないと!」

「いやよ、あんなに働かされて、いい加減つかれたのよ。」

 

ぼくはびっくりした。たしかにみんなつかれていた。だけど、逃げ出すほどだったの?

「あたしは、一番ちいさい歯車だから、一番働かないといけないの。やめたいの」

「それは一番の働き者なのはわかる。だけど・・・だから12番ちゃんは時計にとって本当に大事な部品なんだ」

「あたしは帰らないわよ。これをみてごらん」

そういうと、小さい体で窓のカーテンをサッとめくった。

外の光が風とともに一斉に教室にはいってきた。

ま、まぶしい! 風にとばされまいと机にしがみつくのがやっと。

「ちょっと、ちゃんと見て!」

ぼくは言われるがまま、目を開けた。

 

「見るって・・・何を?

「外の運動場よ!! 見て見て! あれは、ひまわりっていう花のつぼみ、あっちは大きな木、そっちにはてつぼうにすべり台! 知らなかったでしょ?」

だってぼくたちの時計の位置からだと遠くの運動場まで見えないじゃないかと言いかけたが、心が踊った。

「すごい、すごい! こんな世界見たことない!」

とついつい声が出た。

そんな3番くんをみて、こっそり12番ちゃんはこう言った。

「ここで相談なんだけど、外にいったらだめかな?」

外にいく? それは楽しそうだけど、今何時?

あ、ぼくは思い出した! 時計を修理して、元通りにしないと!

うそ! 今もう止まってから45分も経ってしまったの? あと15分しかないじゃないか。

「だめにきまってる! 時計に今すぐもどって、時計をうごかし始めないと!」

「いつもいつも動いて楽しいこともできない! 子どもたちは明日から休みなのに、どうしてあたしたちには休みがないの?」

「時計はずっとずっと動きつづけるのが役目でしょ。戻ろう! 壊れたって気付かれたら、捨てられるよ!」

「どうせ捨てられるんだったら、外のたのしい世界に行こうよ!」

外は、確かにたのしそうだ。でも今日まで、必死に働いてきたことはどうなるの?

どうせ捨てられる? そんな、なんとか説得しなくては・・・あと10分しかない。

「行ってみたいけど、ぼくたちの世界じゃない。ぼくたちは時計でしか生きられない。歯車だよ」

「じゃあ、そんなに戻りたいなら、なんでそんな怖い顔してるの?」

「こ、怖い顔?」

ピカピカの机にうつった顔をみた。

なんてことだ。歯車としてがんばろうと言っているぼくの顔は、ちっとも楽しそうに見えない。

ぼくは、石にかじりついてでも働こうと一生懸命だったのに、バカみたいだと、へナヘナと力が抜けたように座り込んでしまった。

「あたしは、そんな顔みたくない! あたしはみんなで笑っていたかったの」

そうだったんだ。てっきり、ただ動いているのが嫌なだけかと。うーん、時計じゃない世界ってどんな色? どんな香り? 見てみたい気もするけど・・・。

いや、逃げちゃだめだ。まだまだ新しい時計なんかにこの教室の時間をまかせるわけには・・・。

ぼくは、時計のことだけを考えてきたけど、考えているようでちゃんと考えてなかった。テストなのに、答えを書かずに先生に出した、真っ白な紙のように、頭のなかは空っぽだった。

ぼくは苦しくなった。時計をなおさないとゴミになってぼくたちは・・・。

 

12番ちゃんは"おつ"なことをいってくれた。おい、聞いておったか?」

違うだれかの声がした。

「ほれ、わしじゃよ、電池のじぃじ。わしだけじゃない」

後ろを振り返ると、時計の部品たちが立っていた。

「なんでみんないるの? ぼくが遅いから怒りにきたの?」

違った。みんな笑っているではないか。

あと5分で最初のこどもがくる。そんな時間になっていた。

え、ぼくがぼくがしっかりしていなかったから! ごめんなさい!

土下座でもしようかと思ったその時だった。

「あたしはいくよ! 外に!」

 

笑っているみんなを見て12番ちゃんが窓からそとに飛び出して行った。

止まっていられないのが時計の性格。いつの間にかみんなも窓ぎわに。

秒針くんが外へ飛び出した。

「ほら、はやく、はやく!おいで!」

9番くんも外へ飛び出した。

「ちぇっ、いくぜ! こことはおさらばだ!」

ひとり、ひとり、またひとり、飛び出していく。

ぼくも行っていいのだろうか。じぃじは黙ってうなずいた。ぼくの足に力が入った。よし、ぼくも行こう! 行っていいんだ!

ぼくは机から、窓ぎわにジャンプした。窓から運動場に・・・。

自分が笑っている。そう、その顔は笑っていた。

 

 

ちょうどその時だった、教室にこどもが飛び込んできた。

 

「今日も一番乗り!!」

 

「あれ? だれかいた?」

 

「窓があいてる・・・」

 

「時計が止まってる」

 

 

終わり