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小説風エッセイの書き方

【小説の手法を応用したエッセイの書き方】

 

 1)目的(願望のテクニック)を明確にする

 

2)感情の高ぶりを描く(心のつぶやき/心身の変化)

 

3)状況説明(5W1H)

 

4)実況中継でディティールを描く

 

5)感情曲線を上下させる

 

 

 

【小説風エッセイの構成テクニック】

 

1)まず決意する(What/何を決意したのか?)

 

・告白すると決意する

 

・初恋を感じたジャニーズのファンクラブに入ると決意する

 

・初恋の相手をデートに誘うと決意する

 

 

 

2)When(いつ)+Where(どこで)+Who(誰が)

 

を早い段階で書く

 

 

 

3)常にWhy(なぜ)を忘れないように。

 

性格が原因で起こったことや、心理描写などがあるので、それは全体で表現していく。

 

 

 

4)How(どのようにして)は、実況中継ゲームのように書く。

 

 

 

5)Howを描いているときに、感情を上下させる

 

 

 

6)最後は、決意がどうなったのかを読者に伝える

 

 

 

 

 

 

 

【文章例】

 

 

 

 僕は「今日こそは、やるぞ」と決めていた。決めた瞬間、ドキドキしはじめた。学校へ行くときも、足が地についていない感じがして、ともすると転倒しそうだった。実際、学校の階段を上るとき足がガクンとなって慌てて手すりにつかまるほどだった。

 

 何をやるって決めたのか? 恥ずかしくて口にできない。文章にするだけでドキドキする。そう。キス。ファーストキス!

 

 夏から秋に変わる頃だった。高校2年生。広島県福山市の山間部にある小さな進学校である。

 

僕と彼女は、付き合って3ヶ月。無事、映画デートもクリアし、そろそろ次のステージへ行く時期だった。次のステージって何だ? 健全な若い男女はデートの次に何をするべきなのか? 友人に教えてもらった。次は…。

 

 お昼休憩だった。彼女は、友人たちとお弁当を食べていた。

 

「あの、ちょっと話があるんだけど」

 

 僕はモジモジしながら言った。下を向いたままで、彼女の顔がまともに見られない。

 

「フミちゃん、どうしたの?」

 

 彼女は、弁当を終えて、廊下に出てきてくれた。

 

「ちょっと、外へ出よう」

 

 僕は、彼女を校庭の木陰のベンチへ誘った。とにかく、2人きりになる必要があった。誰かに2人の会話を聞かれたらと思うと恥ずかしくて死にそうだった。校庭でサッカーをしている連中や、近くの駐輪場にたむろしている奴、クスクス笑いながら歩いている女子らの視線が気になってしょうがなかった。みんがこっちを見ているように感じた。そして、何か僕に関する噂話をしているのではないかと思った。

 

「あ、あの2人、付き合ってるんだぞ」

 

「ヒューヒュー、お熱いこと」

 

「いやらしい」

 

 そんな声が聞こえそうだった。

 

秋の突風が彼女のスカートの裾を揺らした。

 

「どうしたの?」

 

 彼女はドギマギしている僕の目を覗き込んで言った。

 

「あ、あ、あの」

 

 次の言葉が出てこない。

 

「で、何の話があるの?」

 

「あの。クィーンの新しいアルバム買ったんだけど、聴きにこない?」

 

「へえ。聴きたい!」

 

「放課後に、僕んちへ…」

 

 『来ないか?』とはっきり言えなかった。恥ずかしいから。これだけ言うのでも、心臓が破裂しそうだった。

 

僕の家は学校から歩いて20分ほどの場所にあった。彼女はまだ一度も来たことはない。男の部屋に女子が1人で訪問するなんて、当時は尻軽な行為だと思われていた。もちろん、彼女は尻軽女ではない。断る可能性のほうが大きい。

 

「いいわよ。一緒に帰ろ。フミちゃんちにも、一度行ってみたかったから」

 

 え? と思った。小躍りしたい気分だった。家に来る、彼女が僕の家に来る。ということは、僕の部屋で2人きりになれるということだ。素晴らしい!

 

 学校のグラウンドを見おろしながら坂道を降りていく。彼女は、少し後ろを歩いている。僕は、少し速足になっていた。早く、学校の見えないところまで行きたかったのだ。

 

 田んぼのあぜ道を通り、さらに歩くと上り坂になる。その坂を上りきったところに僕の家があった。ここまで来れば、もう安心だ。高校生たちの姿はどこにもない。変な噂を立てられる心配もなかった。

 

 僕は彼女の手を握ろうと左手を伸ばした。映画デートしたとき、彼女のほうから手を握ってきたので、手を握るくらいなら許してくれるだろうと思った。僕は恐る恐る手を伸ばして、彼女の指に触れた。そのとき、

 

「フミちゃん、お帰りなさい」

 

 近所のおばさんの声がした。僕はとっさに手を引いた。野良仕事の帰りらしいおばさんが、好奇な目で僕たちを見ていた。ヤバイ! 彼女と歩いていたことをオカンに告げ口される。オカンもオトンも仕事で家にいない。家には誰もいないのだ。そんなところに、女の子を連れ込んで何をやっていたのかと詰問されるかもしれない。最悪の気分だった。

 

「あ、あ、あの…」

 

 僕は近所のおばちゃんに挨拶もできず、逃げるようにその場を去った。彼女も少し速足で歩いてくれた。

 

 僕の部屋でやっと僕たちは2人きりになった。しかし、キスをする勇気は僕にはなかった。喉がカラカラになり、コーラを何杯も飲んだ。クィーンのアルバム名は『オペラ座の夜』。「ボヘミアン・ラプソディ」や「マイ・ベスト・フレンド」などクィーンの代表曲が入っていて、彼女も喜んでくれた。彼女の横顔を眺めるのがやっとだった。

 

 僕らにはクィーンの曲を評論する力はなかった。メンバーの裏話も知らない。おまけに、僕の頭のなかは、いつキスをすればいいのか、キス、キス、キスと、キスの文字がぐるぐる回っていた。だから、出てくる会話は「この曲、いいね」くらいだった。会話がとぎれると、沈黙して、重い空気が流れた。沈黙するたびに、キスが遠のいていくようだった。

 

 思い切って、顔を近づけてみた。彼女との距離が10センチくらいになる。彼女はつぶらな目で僕を見つめる。その先を行く勇気が僕にはなかった。顔が火照ってしょうがなかった。キスを意識するたびに、心臓の鼓動が激しくなった。もうダメ、ダメ。逃げ出したい気持ちになっていた。

 

 外はすっかり暗くなっていた。『オペラ座の夜』は、もう5回ほど聴いた。そろそろ飽きてきて、他のアルバムを聴こうかどうしようか迷った。

 

「ピーター・フランプトンの二枚組アルバムがあるよ。それとも、チープ・トリック聴く?」

 

 喉が枯れ、震える声で僕は訊ねた。

 

「ごめん、もう、遅いから帰る」

 

 残念そうに彼女は言った。

 

 あ、あ、ヤバイ。このままだと、キスできないまま終わる。どうしよう、どうしよう。たしかに、もう8時を回っていた。彼女の家は、電車に乗って1時間ほどかかる。遅く帰ると叱られる。そんなことになったら申し訳ない。彼女を苦しめるわけにはいかなかった。かくなるうえは、少しでも彼女と一緒にいるために、僕は駅まで送ることにした。キスはまたの機会にするしかないだろう。あきらめる気持ちが支配的になった。

 

「じゃ、駅まで送っていくよ」

 

 駅への近道があった。その近道は地元民である僕は当然知っている。神社の境内を通りぬける道だった。

 

「近道があるんだよ」

 

 彼女と僕は神社の境内に入った。街灯もない、暗い場所があった。もしかして、ここはチャンスかも、と思った。突然、僕のなかで高揚感が押し寄せてきた。いまだ! 僕は、立ち止り、彼女の手を取った。そして、グイッと引き寄せる。

 

「あの、あの」

 

「え?」

 

 僕の勢いに彼女はビックリしたようだ。

 

「僕、僕、僕…」

 

 僕は、「僕」の次に何を言いたかったのだろうか。自分でもわからない。「僕は君のことが好き」と言いたかったのかもしれないが、そのときは、勢いよく唇から彼女に突進していったものだから、何も言えなかった。

 

 彼女の唇に到達すると同時に、僕は彼女の細い肩を抱きしめた。彼女は釣りあげられた魚のように、おとなしく僕の腕のなかで呼吸していた。僕の唇は彼女の前歯にぶつかり、少し切れたようだ。血液の味がした。

 

 僕のファーストキス。それはしょっぱい血の味だった。

 

 

 

(了)2,777w

 

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私の文章スクールの生徒さんたちが書いてくださった、

文章例をいくつかアップしておきますので、

参考にしてみてください。

 

 

『恋に破れて男は育つ』

 

 

予備校に入校して間もなく、私はとてつもなくすらっとして瞳のぱっちりした女の子に恋をした。名前はMさんという。桜はとうに散り緑が濃くなった頃だ。とてつもなくというのは大げさかも知れないが、身長は170cmを超えたモデル体型だ。かといって派手さはなく、黒板を見つめる瞳にはまっすぐな心根が透けて見える。

 

「今日こそは声をかけるんだろうな」

予備校の席についた途端、ポンと後ろから右肩をたたかれた。振り向くといつの間に来たのか友人の野口が口をあけて笑っている。

「うん、おぉ、やるよ…」

私は強く言えず、曖昧な決意で応じるしかなかった。

 

 数日前、人影もまばらな池袋の公園で初めて野口に胸の内を明かした。子供たちのにぎやかな声が響くのには間がある夏の昼下がり。野口とて恋人がいるわけでもないのに、こういう時になると恋愛の先生かのようにふるまう。

「声をかけてみるんだよ」

それしかないと野口はいう。野口は高校の同級生。私が硬派を気取っていつの間にか女の子と話すのが大の苦手となったいきさつをよく知っている。極端なあがり症ということもだ。

 

 授業はすでに始まっている。人気のある古典の授業なので満席に近い。講師ののびやかな声が室内に響き渡っている。だが、私の耳には届いてこない。

 

 声をかけた途端、すぐに顔が赤くなり、言葉はどもって出てこなくなる。こんな調子で告白などできるのか…。こんな苦い思い出がある。

 高3の1月だ。私がインフルエンザにかかって一週間休んだ時、授業のノートをとってくれた女の子がいた。元気になって学校に行って初めてその事実を知った時、私はとても嬉しくなってお礼を言おうとした。 ところが、いざその子の前に立った時、じっと見つめられたと感じた瞬間、顔が赤くなり、口は開いたのだが次の「あ」が出てこない。汗が吹き出てきた。女の子はにっこり微笑んでいる。決して美形と言うタイプではないのだがどこか愛嬌のある人だった。

「あ、あ…」

「病気なおってよかったね。気にしなくていいよ。ただ写しただけだからさ。中身に間違いあったら、メンゴということで」

先に言われてしまい、とうとう言葉は尻切れ、お辞儀だけのやり取りとなってしまった。

 その日以来、私はその子にどんな言葉をかけてよいのかわからなくなった。授業中や放課後、顔を合わせると微笑んだりするのだが、声をかける糸口すら見つからない。とうとう「ありがとう」の言葉をかけられないまま私は卒業した。

 

 そんな思いにとらわれているうちに古典の授業が終了となった。

 

 「おい、行くぞ。今日はオレもついていくからな」

今日に限って野口がやけにしつこい。お前にできるのか、できるわけないよ、そんなニュアンスが言葉に感じられる。

 教科書やノートをかばんに詰め込み出口に向かう。教室は2階なので一気に階段を駆け下り外にでる。夏期講習の真っ最中なので浪人生の数はいつもより多い感じだ。車の数は少なく、あちこちで数人のグループがいくつも輪をつくっている。校舎を背にして左に向かうと野口に打ち明けた公園、右が池袋駅。

「そろそろ降りてきてもいい頃だ」

野口がつぶやく。私は汗が浮かんでは額から流れていく。時折背中からも。ハンカチを取り出そうとした時、野口が脇腹をつつきすかさず歩き出す。

 

 まぶしい日差しを気にする様子はなく静かな足取りで彼女が池袋駅に向かう。慌てて追いかける私。足は動くのだが決意という心持ちは校舎の前に置いてきた感じだ。行きかう人は皆明るい顔をしているように見えた。私だけを除いて。

「やはりだめだ。言えない」

「失敗するに決まっている。第一喋ったことないんだから」

「いきなり告白なんて。普通じゃない」

口からついて出てくる言葉は悲観的な言葉ばかり。

 

 道を挟んで飲食店が多くなってきた。人通りも行きかう車も増えてきた。とりとめのない思いが浮かんでは消え、そうこうしているうちにもう地下に向かう階段だ。

 

 「おい、どこで言うつもりだ」

野口が言う。

「どこでって。そんなの知るか」

「お前、とにかく言うんだ。言わなきゃだめだ。言えば次が始まるんだ」

「今日じゃなくてもいいよ。機会はまたあるよ」

「だめだ、今日だ」

「何でそんなにけしかける」

「いいからつべこべ言わずやってみろよ。それが大事なんだよ」

私と野口は足を速めて彼女の後ろについた。

 

 人は風景となって目に飛び込んでくる。飛び込んできては去っていく。

 もうすぐ改札だ。野口が私の背中をたたく。何度もたたく。音がするほどだ。

 しのびよるその音に気付いたのだろう、突然彼女が振り向いた。憧れの人は今目の前にいる。

 もう話すしかない。

「あの~。オレ、…実は同じ予備校で…。もしよかったらお茶しませんか?」

沈黙がおそう。戸惑う彼女。不思議そうにこちらに目を向ける瞳はやはり素敵だ。私は次の言葉を発することもできずただ立ち尽くしていた。

 気が付いた時には、彼女は改札口の向こう側に消えていた。

 

 振り向くと野口がびっくりしたような顔をして立っている。

「おい勇気あるな。ダメもとだったんだからOKだ。あれでうまく言ったらおれが困る。さぁメシ行こう」

 

 私は、失敗した。大失敗だ。だが、確かな手ごたえが身体の芯から湧き起る感情に酔いしれていた。そして、あの時、言えなかった「ありがとう」の言葉が今は言えるという確信も芽生えていたのである。

 

 

 

 

 

 

『下敷きを知った時期』

 

 

 今日こそは憧れのキャラクター「ハーロック」のグッズを探してやる。

 

 ハーロックは、古すぎてその辺ではグッズも見つからない、私の幼少期の初恋のキャラクターだ。中学生の私は、少ないお小遣いを握りしめて、横浜駅東口のアニメグッズショップ、アニメイトへと来ていた。

 

 しばらく前、場所のわかりづらいアニメイトヘ友達に案内してもらって来た時は、ハーロックのグッズなど見つからなかった。仕方が無い、10年以上前の古いアニメなのだし。店内をつぶさに見て探したかったが、一緒に来てくれた友人を待たせるのは申し訳なく、その日はそのまま何も買わずに帰った。でももう場所は覚えたし、今度は気兼ねせず一人で来られるんだ。

 

 再び訪れた私は、店内の商品を、丁寧に奥のほうのものまで見て行った。マグネットにメモ帳、セル画にポスター、店内所狭しと並ぶ沢山のグッズの多くは、最近放映された人気アニメのものだ。そちらの方がファンが多いので売れるからだろう。作品ごとにまとめられていればいいのに、そうくっきり分けられないのか、色んな作品が交じり合い、思いもよらぬグッズが思いもよらぬところで発見される、カオスである。

この中からお目当てのものを探すには、まさに一つひとつ確認していくしかなかった。何時間もかかった。ほとんど営業妨害である。

 

 くたびれ果ててきた頃、努力が天に通じたのか、沢山ある中に一枚だけ見つけた。

ハーロックの下敷きだ!!

 

 見間違いでないか何度も見てしまったが、間違いない。私は早速それをにぎりしめてレジへと向った。

 

 混んできたのかレジは長蛇の列だった。仕方がないので並んでいたら、オタク同士の気楽さか、後ろに並んでいた女の子と会話がはじまってしまった。

「ねえ何買うの?みせて?」

私は、握り締めていたハーロックの下敷きを見せた、相手は一瞬間を置いて、

「…シブイね…」

と一言言って黙ってしまった。

 

 わ、私の趣味はやはり変だったろうか…今風のアニメが好きな人だと、やはり古いアニメの画風が妙に見えるんだろうか…ぐるぐる考えていたら、なけなしの自信が余計無くなってきた。

 

 そうしているうちにレジの番が来た。

 もしかしてレジの人もこの下敷きを見て変だと思わないだろうか。周りの下敷きはみんな、最近のアニメばかりだったのに、これ一枚だけ古くて売れ残りの雰囲気をかもしだしていた。こんなのあったっけと、変な反応を返されないだろうか。そう思ったら、まるでエロ本でも買うかのごとくにぎこちない動きになり、裏返して下敷きを差し出した。

 

 店員はあっけなく下敷きを表にし、チラッと一瞥しただけで、レジを打った。支払いは何事も無く終わり、薄い紙袋を握り締めて、私は駅前からバスに乗った。

 

 帰り道こっそり袋のテープを開けて、下敷きを出さない状態のまま、中を何度も確認した。古すぎてレアになった憧れのキャラクターは、夢ではなくちゃんとそこにいた。

 

 

 

『ふりだしへもどる』

 

 もう自分の好みなんか信じない。とにかく疲れた。本日、私は離婚届けを出した。

 人生は選択の連続だ。今日は休もう、今日はがんばろう。こうしたい、ああしたい。これが好き、あれが嫌い…。1日1日1分1秒ごとに何かを選択して人生を歩んでいる。

 30歳のときに結婚した。それは今思えば30年間選択し続けて辿り着いたひとつのゴールだった。選択というのは非常に自分の好き嫌いに左右される。特に異性に対しては嫌いな人を自分で選ぶはずはないのだから当然といえば当然だ。奥さんは綺麗な子ではあるけれど、どうにもエキセントリックだ。そのエキセントリックなところに魅かれた。しかし、その魅かれた部分が仇となった。

 数か月前の話だが、私はたまたま初恋の親戚という人(女性)に出会った。

 私の初恋は小学6年生。名前は路子ちゃん。目が大きくて、今でいえば柴﨑コウのような目が印象的で、いつの間にか好きになっていた。特にしゃべることもなく、その子の姿を見つけるだけでうれしかった。その初恋は中学1年まで続いた。

 中学ではクラスは別々だった。共通の友達がはやしたて、知らぬ間に2人は付き合っていることになった。特に二人で会って話したりすることもなく、そうこうしているうちに、知らぬ間に2人は別れたことになり、彼女には新しい彼氏ができた。それも私と彼女をくっつけた共通の友達が私に教えてくれた。彼女は女性の間では不人気だった。私の初恋はこんな感じで終わった。

 路子ちゃんの親戚とは東京で仕事の関連で出会った。同郷の人同士がよくやるように、と非常にローカルな話しで盛り上がった。

「僕の家は〇〇中学校の道を挟んだここ!」

「私の親戚は〇〇中学校の正門前の〇〇食堂!」

「えっ!?もしかして〇〇路子ちゃん?」

「そうでーす」

「僕、同級生、同級生!」

なんだか久しぶりに興奮してきた。何せ私の初恋の人だ。

「路子ちゃんは今何してるの?」

「少し前に離婚したの。でも性格悪すぎるからねぇ、全然かわいそうとも思わないんだ。」

絶句…。初めてあった人に自分の親戚が大嫌いっていうか?普通。当時の彼女の姿が記憶が頭の中を駆け巡った。

 まんざら嘘ではないなと思った。だって彼女は中学の時も同性には嫌われていたから。

 「路子ちゃんが私の初恋の人」だなんてとてもじゃないが、ふざけてでも言えなかった。

 親戚さんの名前も忘れてしまった。

 私の初恋の人は性格が悪いのか。私は小学生の頃から性格が悪い女が好きなんだ。小学生のときから布石があったのだ。途中の道のりもそうではないか。

 今回のゴール、なぜ今の奥さんに辿りついたのかよくわかった。全然彼女は悪くないのだ。

 私は離婚を決意した。また一からやり直しだ。

 

 

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『ホワイトデー』

 

 

この日が勝負と決めていた。10年とちょっとの人生で、学校のテストと運動会の徒競走以外、勝負ごとは経験がなかった。

今日はホワイトデー。チョコレートをもらった男子が女子に何らかのアクションを起こす日。1ヶ月前のバレンタインデーでふり絞った勇気に対する審判を仰ぐこの日に、恋の勝敗が決まるのだ(と思っていた)。

 

卒業を控えた小学校6年生の2月。たかしくんは学校では児童会長で、地元のサッカークラブではキャプテンをつとめる目立った存在だった。

勉強はさておき、超がつくほどスポーツ万能。巧みなおしゃべりでクラスのムードメーカー。何よりたかしくんはジャージ姿が魅力的だった。私はそんな彼を春ころから気になり始めていたみたいだ。

遠足の班決め、席替え、そんな時は私の運の試しどきだった。

班が同じだったら、遠足の前日は眠れなくなるほど舞い上がり、席替えで隣になれたら天国。しかし、現実はそんなに運を持っていなかったらしく、班はなかなか一緒になれず、席替えで隣になることもなかった。ただ、秋の終わり頃から話す機会も多くなり、私にちょっかいを出してくるようになり、私は学校が楽しくて仕方がなかった。

そして1ヶ月まえ、無事にチョコレートを手渡した。

 

ホワイトデー当日、その日は今にも雪が降りそうなどんよりとした空だった。

呼び出されるかもしれないなんて期待をして、家にすぐ帰らず、ちょっと学校でふらふらしていた方がいいのか迷っていたら、友達のしーちゃんに一緒に帰ろうと声をかけられた。「うん・・」と少し渋っていると「どうしたの?気になる」と私の顔を覗き込む。私がもたついていると「一緒に帰らないの?」と言われ慌ててランドセルを背負った。

 

しーちゃんと別れ、家の玄関前でまたまわりをちらり。うちに来ているかもしれないという期待がそうさせた。塾までの時間を一人で過ごす。中学生の姉は部活で遅いし、パートにでている母も夕方まで戻らない。テレビのチャンネルを次々にかえては落ち着かない。お菓子をポリポリ食べ始めた。そのときだった。

玄関のチャイムがなる。慌てて飛び出す。

そこに立っていたのは赤いジャージ姿のたかしくん。ひょろっとした手の先に小さな包み。

「これ」とぶっきらぼうに言って差し出すと、くるっと向きを変えて走り去った。

それから5秒くらい立ちんぼになって我に返る。

「もらっちゃったぁー!わざわざうちにきたよ。やったね」

軽く小躍りして気づく。たかしくん、手に紙袋持ってたよね。あれ何?このあと誰のうちにいくの?嬉しさのあまりライバルの子たちのことをうっかり忘れていた。

そりゃそうよね、サッカークラブのキャプテンだもの。

 

その1時間後は、週1で通っている英語塾。クラスは違うけど、たかしくんも同じ塾に通っている。

そのとき何気ない会話が飛び込む。「たかしくん」「ホワイトデー」「お返しもらう・・」気になるワード。つなぎあわせると、ホワイトデーのお返しをたかしくんからもらい、それがキャンディだったという女子同士の会話。

「キャンディ・・・」

あの子たちはキャンディをもらったのか。

 

私は、私は、、、。さっきあの小さい包みをあけたら小さな手鏡が入っていた。

キャンディより上だよね。マジ、私って本命なのかしら。

 

初めてのホワイトデー。その時の手鏡は私の宝物になった。私にはどうしてキャンディではなく手鏡だったのか、手鏡に何の意味があるのか。そこを探ることは一切せず、ただただ宝物にした。その日雪は降りそうで降らなかった。

 

 

 

 

『私の初恋と宝物』

 

 これは昭和四十五年の四月、私が小学校の三年生のときの話だ。私は焦っていた。クラス替えで同じ組になった上條法子に一目ぼれして、誰よりも先にその気持ちを彼女に伝えたいと思っていたからだ。新学年早々、すでに法子はクラスの男子の間ではマドンナ的存在になっていた。サラサラの黒髪が特徴のとにかく可愛い子だった。

 それで私は、近所に住んでいた従兄で六年生の竜也くんに相談した。その頃の私にとって彼は自分よりずっと大人で、とても頼りになる兄貴分だった。

「竜ちゃん、どうすればうまくいくかなあ」

「そりゃあプレゼントをするに限るぜ、真一」

「プレゼント?」

「ああ。女の子はプレゼントに弱いんだよ」

「どんなものをあげればいいんだろう?」

「おまえがいちばん大切にしているものをやるんだ」

「いちばん大切なもの?」

「そうだ。いいか、ケチるんじゃないぞ」

 家に帰ると私はすぐに自分の部屋に行って、机の引き出しの中と押し入れのダンボール箱に入っているものを部屋の真ん中に全部出して、自分のいちばん大切なものを選んだ。私が子供の頃、遊びで流行っていたのはメンコである。特にプロ野球選手の写真がついたメンコが人気だった。そして私のいちばんの宝物は、巨人の長嶋と王が二人で並んで写っているメンコ。当時、一人だけで写っているメンコは結構出回っていた。しかし、一緒に写っているのは超レアもので、近所やクラスメイトの間でも持っているのは私だけだった。さすがにこれを手放すのは勇気が必要だったが、竜也の「いいか、ケチるんじゃないぞ」という言葉が頭をよぎり、私は決意した。――明日これを持って行って、法子に好きだと言うぞ。

 

 放課後、私は家に帰る途中の法子の後を、気づかれないようについて行った。別の二人の女の子が一緒にいて、それが邪魔だった。しばらく行くとそのうちの一人が「サヨナラ」と言って路地を曲がった。そして少し先の二股の道で、もう一人の子も違う方へ行き、法子は一人になった。

 私はチャンスだと思ったが、なかなか勇気が出ない。あと五分も歩けば彼女は家に着いてしまう。私はありったけの勇気を振り絞って彼女に近づき、「上條!」と声をかけた。すると、そんなに驚かなくてもいいだうというくらいのオーバーなリアクションで彼女は振り返った。そしていかにも怪訝そうな顔をして、「な、何?」と言った。

 彼女を呼び止めたまではいいが、私はどう切り出したらいいかわからなかった。それでいきなり私は、

「これ、お前にやる」と私は言った。

「なに、それ?」

「長嶋と王のメンコ」

「――いらない」

「えっ! あの巨人の長嶋と王のメンコだよ」

「――そんなの欲しくない」

 法子はそういうとくるりと振り返り、走って行ってしまった。彼女の肩までくらいある髪が私の方になびいているのが見えた。私はしばらくの間、呆然としてその場に立ち尽くしていた。

 

 初恋というテーマで若き日の自分を思い返して、いろいろな場面が頭に浮かんできた。その中でこの話を自分の初恋だと特定した理由は、これが五十歳を過ぎた今でも引きずるところがある出来事だったからだ。それは何かというと、私はいまだにプレゼントという行為が苦手なことと、風になびく女性の髪を見ると切ない気持ちになることだ。

 

 

 

 

 

『プレゼント』

 

 

 ついに、この日がやってきた。

部活と試験疲れが抜けきれず、しかし前の日は緊張をすることもなく、ぐっすりと寝た。朝の目覚めも良い。

 行ってきます。

 家を出てからしばらくして、傘とハンカチを忘れてしまった事に気づく。空を見上げると、グレー色の空には雲が立ちこめ、午後四時だと言うのにもう夜のような暗さだ。コウモリが飛んでくる。今にも雨が降り出しそうだ。でも大事なものは持って来た。戻るの面倒だし、いいや。これを、とにかく渡そう。

 今日はクリスマス!初めて彼氏と過ごすのだ。そして、初めてプレゼントを交換し合うことになっていた。

 私は、自分の下宿のある荻窪駅から水道橋駅へと急いだ。中央線、総武線を乗り継いで水道橋駅に到着、神保町へと歩き出した。彼は神保町にある小さなビストロでアルバイトをしていた。

 大学二年。私と一つ上の学年の彼とは、今年の夏祭りをきっかけにつきあい始めたばかり。クリスマスは、彼のアルバイトが終わった後に、ビストロで食事をしようと言う事になっていた。

 気に入ってもらえるか?私のプレゼントは、初めて編んだマフラー。まだ少しドキドキしていた。だめだー。部活の試合と朝夕の練習で忙しい毎日の中、移動時間に編み針を動かし、水道橋駅のホームで毎日数十分ずつ編んだそれは、おせじにも綺麗とは言いがたく、編み目も粗かった。しかし、オフホワイトの色と柔らかい手触り、自分の匂いがしみ込んだと感じるほどに愛着もわいていた。

 彼の働くビストロのあるビルに着いた。バッグの中を再度確認してから、エレベーターに乗る。三階に着いた。ドアが開く。

「いらっしゃいませ」

 いつもの、オーナーの温かい声と笑顔が迎えてくれる。もう何度も足を運んでいるため、オーナーはじめ店のスタッフとは顔見知りだ。 

 厨房の方から彼の声がする。

「今、仕込みを手伝っているから席で待ってて!」

 クリスマスと言えば、飲食店にとって一番の繁忙期だ。カウンターと厨房の入り口が見える暖炉に近い席に案内され、野菜スティックをつまみながら待つ。

 午後六時を回り、サティの音楽が静かに流れ、次々にお客がやってくる。団体客も多い。

「一段落したら、今日は早めに開放するからね」

 突然、オーナーがやってきて言った。

「全然構わないです。でも、ありがとうございます!」

 いつもは深夜までアルバイトをしている彼。初めてのクリスマスの今日は早めにということらしい。私はバッグの中を確認し、書いた手紙をもう一度見直していた。

“マフラー、気に入ってくれると良いな。これからもっと寒くなるので、お正月の帰省の時にでも良かったら使って下さい”

 そんな言葉を眺めながら、思い返していた。小学生の頃から、いつか本当に好きな人が出来たら初めてのプレゼントはマフラーにしたいと考えていた。北海道で生まれ育ち、十歳で静岡に転校した私には、まだマフラーは必需品という思いが染み付いていた。そして、そんな特別なものを誰かの為に編んでみたいと漠然と考えていた。

 ああ、だめだー。座って本を読んだりしていたけれど、あんな出来ではだめだろう、喜んでくれないのでは、という気持ち。ここにじっとしていられそうにない。

 オーナーに話し、しばし外出する。少し離れたスポーツ専門店に向かう。学生やカップルがたくさんいる。いつも通りかかっていたそこは、ディスプレイが変わっていた。ステキな最新ウェアやサングラスなどのアクセサリーが展示されている。スキーが趣味である彼。プレゼント、スキー用品の方が良かったかな。

 そんな思いを抱えながら、お店に戻り、彼の仕事が終わるのを、ひたすら待つ。

 八時をまわった。ようやく彼が厨房から出て来た。

「今日はもう帰っていいって!」

 え、と思った。一緒に食事をした後、また仕事に戻る事になっていたからだ。やった、と思った。正直のところ、あのマフラーを人前に出して渡すのが恥ずかしかったからだ。

 神保町駅へ。都営三田線に乗り、彼の下宿へ急ぐ。玄関先に着いた。

「先に家に入るから、ちょっと待って」

 そう言って、部屋に入って行く。私は玄関先で待つ。時計を見ると九時になっている。数分経った後、彼がひょっこりドアを開けて顔を出した。

「もういいよ」

 中に入ると暗い。でも部屋の奥に何かガラスのようなものが光っている。よく見ると、それは大きな絵だった。プラスチックの額が光っているのだと分かった。

「メリークリスマス。笹倉徹平の絵だよ。中にMerry Christmasって書いてあるんだ」

 電気がついた。絵の中にはたくさんの色とりどりの花が入った花瓶、テーブル。その上に置いてある封筒に、確かにMerry Christmasと書いてある。

「小学生のときから、初めてつきあった彼女への最初のプレゼントは絵にしたいって決めてたんだ。ちょっと渋すぎるって思われないか心配だったけど」

「え、ほんとに?」

 大きい声を出してしまった。絵。このような大きなものを今までもらったことがない。その絵は縦一メートル、横に一メートル半はある。

「とても嬉しい。ありがとう!私も同じ。私も小学生のときから決めていたの。少し恥ずかしいけれど、これ、渋すぎるって思われないか心配だった。初めて編んだよ」

 そう言って、マフラーを差し出していた。気がつくと、彼はそれをすぐさま首に巻いていた。気に入ってくれているかは、彼の顔を見れば分かった。彼の丸い顔がますます丸く見えた。

 二人で小さい頃からの夢の話をした。時間があっという間に過ぎ、十二時になった。外は雨が降り始め、寒さに初めて気づき、数時間もの間、暖房を入れていなかった事に気づく。外は、真冬が近づいていた。

 私の初めての彼とのクリスマス。それは私が初めて本当に人を好きになったことを確認した日。そして。本当に好きになった人と心を通わせる事が出来たことを確認できた日。

 

 

 

 

『最初で最後の通学路』

 

 

階段を駆け下りていくと、いつもの大きな背中が見えた。それだけでドキドキする。ちょっとだけ右肩上がりの幅広い背中。そういえば、左肩が下がってるのは、剣道をはじめてから毎日防具を背負うから、どうしても左肩が下がるんだよ、お前と一緒だなって笑ってたっけ。

 

「せんせ!お待たせ!」

「お、行くか。」

 

振り向いた先生の笑顔。やっぱりいいなぁ。なんだろ、心の真ん中があったかくなる。3年間大好きだった笑顔につられて、私も笑顔で大きくうなずいた。

 

先生の生徒でいた3年間。先生のことがずっとずっと好きだった3年間。初めて訪れた絶対に誰にも邪魔されない二人っきりの時間。駅まで10分間、これはチャンス。卒業まで後1ヶ月。今しかない気がする。この気持ちを伝えるチャンスは。

 

巡り巡ってきたこのチャンスのきっかけは、今日の高校生活最後の委員会。諸々の引継ぎが終わったのは最終下校時刻ぎりぎりの6時5分前。思いの外長引いたせいで、他の皆は帰ってしまって最後に残ったのは委員長の私と顧問の先生だけだった。

 

「すっかり遅くなっちゃったな」

「もうすぐ6時だよ、せんせ」

「すっかり真っ暗だなぁ。下校時刻過ぎる前に帰るか」

「うん。あ!ね、せんせ。あのさ、駅まで一緒に帰ろ」

「そうだな。じゃ、昇降口で待ってるよ」

 

よかった、思い切って言ってみて。それに待ってるよって、うれしいな。だって、まるでデートの待ち合わせみたいっぽくない?そんなこと思いながら大急ぎで下駄箱に走って、上履きから下履きに履き替えて、コートを羽織って階段を駆け下りたんだ。

 

「ひでえよ、もう、職員室も誰もいなかったよ」

「ふぅん、先生たちって案外帰るの早いんだね」

 

たわいもないことを話しながら駅を目指す。ちょっとドキドキしているのは内緒。このドキドキが先生に聞こえませんように。それにしても、二人で並んで歩くのがこんなに嬉しくて楽しいなんて知らなかったな。

 

「あぁ、3年なんてあっという間だね。あと、1ヶ月で卒業だなんて信じられないよ」

「ほんとだなぁ。俺も新卒できて4年目、あっという間だったよ」

「そういえば、せんせ、私たちが1年の頃はよく生徒に間違われてたよね。紺ブレ着なくなったのはそのせい?」

「おう。もう俺は紺ブレは絶対着ないぞ。」

「あのときは生徒に完全にとけ込んでたよねー。童顔だし」

「俺、そんなに童顔?」

「うん。おもいっきり童顔」

「そっかー。お前からみても童顔か。なんかさ、生徒から友達としか思われてないもんなぁ。それはそれで嬉しいんだけど、ちょっとは尊敬されてぇなぁ」

「えー、わたしは尊敬してるよ」

「お前だけだよー、そういってくれるの」

 

先生はくしゃっと笑って、大きな手で私の頭をくしゃくしゃって撫でる。この3年間、何度もくしゃくしゃってされたけど、その度に胸がドキドキした。先生に聞こえてないよね、このドキドキ。なんで好きな人にくしゃってされるとこんなにドキドキするんだろう。どんなに考えても「好きだから」の答えしか見つからないよ。

 

「それにしても、もうお前も卒業かぁ。早いなぁ。」

「ほんとだよ。あっという間、もう来月にはいったらすぐに卒業式。」

「ま、その後お前は俺の後輩になるけどな。」

「おかげさまで、無事合格いたしました。ほんとにありがとう、せんせ。」

 

そう、私は卒業したら先生の出身大学に併設されている短大への進学する。目指していた学科は受験科目に日本史があって、当時、全国に3校しか設置されていない珍しい学科に通っていた私は、選択科目にも組み込まれていなかった日本史を勉強するために2年間、先生にマンツーマンで教えてもらっていた。

 

「俺さ、今だからいえるけどな、お前に「日本史を教えてください」っていわれて本当に嬉しかったんだぜ。」

 

突然の先生の一言にドキって胸が鳴った。今、嬉しかったっていったよね。

 

「ずっとさ、生徒にチャン付けで呼ばれててさ、俺って教師って思われてないなぁってちょっと落ち込んでた訳よ。でも、お前が「教えてください」って言ってくれてさ。俺を教師として頼ってくれる生徒がいるんだってな。頼りにされてるって、なんかそれが本当に嬉しかった訳よ」

 

先生はくしゃくしゃの笑顔でそう言った。

そんな風に思っていてくれたんだ。もう、どうしようもなく嬉しくて、言葉がでなくて、ドキドキしながらただ先生の目をじっと見つめながら聞いていた。

 

「だからさぁ、お前が合格したのは嬉しかったよ。でも、卒業して寂しくなるなぁってのもある訳よ」

 

「訳よ」は先生の口癖だ。あと何回聞けるのかな。

 

「だからさ、卒業しても、お前はこれからも俺の大切な生徒で、後輩だからな。俺はお前の兄貴みたいなもんだ。だからさ、何か困ったことがあったらいつでも連絡してこいよ」

 

先生はあの大きな手を差し出した。私もあわてて手袋を外して手を差し出して握手をした。

 

もう、先生はずるいな。私が告白する前に答えがでちゃったじゃない。先生の手をぎゅって握り返しながら心がきゅって鳴った。

 

先生、私の気持ちにとうに気づいていたんだね。だからあえて、兄貴みたいなものだろって言ってくれたんでしょ。これからも今までみたいにいれるように。ちょっと泣きそうになったけど、先生を困らせちゃいけないと思って、ありったけの笑顔でこう言った。

 

「ね、せんせ、寒いからココア買ってー」

 

そっと手を離して自動販売機を指さす。

 

「おう」

 

先生は大きな笑顔で頷くと、自動販売機の前に仁王立ちをした。なぜかいつも仁王立ち。仁王様って呼んだら顔を真っ赤にして怒ったことがあったよね。

 

ガシャンガシャンと缶の落ちる音がする。先生はコーヒーを左手に、ココアを右手に持って私に差し出した。

 

「ありがとー」

 

ほんのり甘いココアは、ちょっと切なくてまるで私の3年間の恋心みたいな味がした。

 

もう一度、ありったけの笑顔で先生に笑いかける。

 

「暖かーい、美味しいね」

「そうだなぁ、うまいなぁ」

 

お互いに笑顔で先生はコーヒー、私はココアをゆっくりと飲んで、また笑った。

 

「さ、風邪ひかせるわけにはいかないからな。そろそろ行くか」

「うん」

 

 

先生と帰る最初で最後の通学路。夜空を見上げたら星がきらきら光っているから、先生と星座の話をしながら二人並んで駅を目指した。私は結局先生に大好きって言葉を伝えることはできなかった。けど、でもね、先生、今日は一緒に帰れて本当によかったよ。ありがとう、先生。やっぱり、大好きだよ、先生。この言葉はずっと胸にしまっておくね。

 

 

 

 

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コメント: 1
  • #1

    横尾光弘 (日曜日, 07 1月 2018 10:52)

    おはようございます。。。
    年末年始忙しくブログを開く時間がなくすみませんでした。。。
    やっと少し時間が取れるようになりましたので、頑張って多くの人に感動できる素敵な文章が書けるよう学んでいきたいと思います。。。
    ありがとうございます。。。